以前の記事で「汽水湖で育つ生物のNo.1はしじみ」というお話をしました。
ですが、そんな汽水湖の中でも、更に限られた環境でしかしじみは生きることができないんです。
この記事では、皆さんの食卓に届くしじみが、どんな環境で生きているかについてお話させていただきたいと思います。
日本一のしじみ漁獲量を誇る「宍道湖」で生きるしじみ
まず、わかりやすいように島根県の「宍道湖」を例に説明させていただきます。
宍道湖は大きく「湖柵部」、「湖盆部」に分かれており、それぞれ特徴が異なるため一つひとつ解説させていただきますね。
湖柵部
湖柵部は水深が浅く、風や波の影響を受けて水が上下に動きやすい環境になっています。そのため底質粒の大きさは粗く、砂や泥、礫(れき)によって形成され、酸素の量も多く含まれていることから多くの生物が生存できる場所になります。
意外に思われるかもしれませんが、しじみも呼吸をします。そのため、酸素の有無が大きく関わってくるんです。この水中に含まれる酸素の量を「溶存酸素」と言います。
湖盆部
湖盆部は水深が深く、外的環境の影響を受けづらいことから水が動きにくい環境です。また、周辺河川や湖柵部から運ばれてきた小さな粒子が沈殿し、蓄積するとどんどん粒の荒さは小さくなり粘度のような泥が形成されていきます。
さらに、塩分を含んだ水が底層に入り込み、そのまま停滞してしまうと酸素が薄くなり生物の生息がほとんどできない環境になってしまいます。
なぜ湖底で酸素が少なくなるかについては、次の見出しで解説させていただきますね。
ここまでお読みいただいてわかるように、湖柵湖はしじみにとってとても大切な場所になります。しかし近年、干拓工事により埋め立てや護岸の改修工事などによりその面積は徐々に減少しているのが現状です。
そして、最近では「黒色軟泥化」という問題も浮上してきています。黒色軟泥とはいわゆる「ヘドロ」のことで、このヘドロが湖底に蓄積していくと、しじみが餌を取るための水管に泥が詰まり、しじみが死んでしまうのです。
現在の網走湖の環境は淡水層と塩水層に分かれている
では嶋田がお仕事させていただいている「網走湖」はどうでしょうか。
実は、網走湖は元から湖だったわけではありません。1万年ほど前までは海の一部で、そこから海水面が変動したり、漂砂したりすることでできた海跡湖なんです。網走湖が「汽水湖」であることは以前にもお話しましたが、今回は湖底環境に焦点を絞って見てみましょう。
網走湖の中には二つの層ができています。「淡水層」と「塩水層」。水深約7mほどに境界があり、これより浅い所が淡水層、深い所が塩水層となっているんです。下層の塩水層は、無酸素状態となっています。
宍道湖はグラデーションのようになだらかに湖の環境が変化しますが、網走湖は深さによりハッキリと環境が異なるんです。
そんな網走湖は北海道の「しじみの生産量」の8割以上を占めています。ですが、塩水層が増えているという話も有り、両手離しに喜べる状況ではありません。僕含め環境についても考えていく必要があると思っています。
網走では「網走湖水環境改善施策検討委員会」が立ち上げられており、湖の環境を保つために頑張ってくれています。もし網走に旅行の際には、皆さんもちょっとだけ、網走湖の環境を想ってくれると嬉しいです。