今まで、しじみの美味しさや栄養素についてお話することが多かったと思います。

ですが、しじみの生活については全然お話できていないことに気付きました。

そこで今回は、しじみが湖でどのような活動をしているのか、水質の面から見ていきたいと思います。

やや難しいお話ですが、なるべく具体的な数字を多く、わかりやすく伝わるようにしていますので、ぜひ読んでみてください!

窒素やリンとしじみの関係

しじみは、湖内の窒素循環において重要な役割を持っています。

宍道湖のヤマトしじみは、1日に全体で約22トンの窒素を取り込み、水中の窒素同化産物として約133トンの窒素を体内にストックしていることがわかりました。

さらに1日当たり、6.5トンの糞を排泄します。実はしじみの糞は、他のゴカイなど水域の底質の中に生息する生物により食べられます。

尿は約4トンであり、無機質窒素として排出されます。その無機質窒素を植物プランクトンが再利用し、その植物プランクトンをしじみが餌として食べる、という循環が出来上がっているんです。まさにしじみに余す所無し。

以上のように、ヤマトしじみは多くの窒素を取り込み、排出物は他の生物の助けとなることがわかっています。特に、窒素循環については重要で、宍戸湖の生態系の中でも最も活躍しているんだとか。

しじみのろ過作用

しじみのろ過作用

しじみが存在するだけで、その湖はキレイになるんです。これは、しじみの食事風景に秘密が隠されていました。

しじみは餌を食べる時、入水管と言われる部分から湖の水を飲み込みます。そして、エラで不要な物を取り除いて栄養にし、キレイになった水を湖に戻します

「日本シジミ研究所」が行った実験によると、しじみは1時間あたり0.17Lの水をろ過していたとのことです。少ないように聞こえるかもしれませんが、しじみは数千〜数万トン単位で存在します。例えば、宍戸湖であれば約31000トンのしじみが存在しており、しじみ全体によるろ過量は1時間あたり約52億Lになります。

宍戸湖の水量は3600億Lなので、湖全体の水を約3日でろ過できる計算になります。やっぱりしじみって凄い。

漁獲による水質浄化作用

漁獲による水質浄化作用

実はしじみ本体だけでなく、しじみの漁獲による水質浄化作用も大きいんです。簡単に説明すると、以下の通りになります。

しじみの漁獲による水質浄化作用
  1. 湖の中にある栄養塩を除去するための現実的な方法がほぼ無い
  2. 栄養塩には窒素やリンが含まれる
  3. しじみは多くの窒素、リンを含んでいる
  4. しじみを漁獲することで、窒素、リンを湖の外へ持ち出すことができ、湖の環境改善に繋がる

少し古い調査にはなりますが、1982年、宍道湖で行われた調査によるとヤマトしじみは年間で約15000トンの漁獲量があり、そのしじみの中に約66.5トンの窒素と、約5.8トンのリンが含まれていたんです。

間接的にこの量のヘドロを取り除いていたということになりますね。水質改善に関われていて嶋田も嬉しいです。

人間と同じように、しじみが生きるためにも酸素が必要です。

今回は、しじみの呼吸に関するお話。溶存酸素や、湖の水ではどのようにして酸素が生み出されるかについてわかりやすくお話します。

溶存酸素とは水中に含まれている酸素のこと

溶存酸素とは水中に含まれている酸素のこと

溶存酸素とは、水中に含まれている酸素のことを言います。「宍道湖」では、しじみの生息には50%以上の溶存酸素飽和量が必要と言われ、より多くのしじみが生息する為には80%以上必要になるなど、しじみが生きるために重要な要素の一つになります。

「え、水中にいるしじみに酸素が必要なの?」と思われるかもしれません。実はしじみは、入水管と呼ばれる所から水を吸い込み、エラ組織で水中の酸素を体内に取り入れ呼吸をするんです。

意外かもしれませんが、水の中にも酸素はあります。この水に溶けている酸素のことを「溶存酸素」と呼び、しじみが生きていく上では溶存酸素量が非常に重要なんです。

どうして酸素がなくなる?

どうして酸素がなくなる?

溶存酸素量、という言葉があるように、水の中でも「酸素がある場所」と「酸素が無い場所」に別れます。ざっくり言うと、底層(湖の底の方)は酸素が少なく表層(湖の上の方)は酸素が多い傾向にあります。ちょっとわかりづらいと思うので、それぞれ解説させていただきますね。

表層で酸素が多い理由

湖の表層水は、場所的に空気に近く、そこから酸素が溶け込みます。それに加えて、水の中にいる植物プランクトンが光合成を行い、酸素を生み出すわけです。その量はほぼ年間を通して飽和状態になるほど。

多くの魚や貝類が表層で暮らしているのはこれが大きな理由の一つなんです。

底層で酸素が少ない理由

逆に、底層には光が届きません。そのため植物プランクトンが光合成を行えず、地上からの空気も届かないため酸素が少なくなります。さらに、湖底にヘドロが溜まることで、バクテリアがそれを分解します。その分解の時に酸素を使用してしまうので、ますます底層の酸素が薄くなってしまうというわけです。

では、酸素が少ないとどうなるのか?ほとんどの生物に有害な硫化水素が発生してしまいます。これはしじみも例外で無く、現に宍道湖などの湖盆部ではしじみの生息が確認できないほどです。

網走湖の酸素状態について

網走湖の酸素状態について

網走湖は大きく「淡水層」と「塩水層」に分かれています。淡水層では先ほどお話した通り空気中から酸素が取り込まれること、植物プランクトンの光合成などにより酸素が豊富にあります、逆に、塩水層ではほぼ無酸素状態であり、昨今この塩水層が徐々に増えつつあります。

より詳しい内容につきましては「しじみが生きる為の湖の環境とは?宍道湖と網走湖を例に解説!」という記事で紹介させていただいていますので、併せてご覧ください。

以前の記事で「汽水湖で育つ生物のNo.1はしじみ」というお話をしました。

ですが、そんな汽水湖の中でも、更に限られた環境でしかしじみは生きることができないんです。

この記事では、皆さんの食卓に届くしじみが、どんな環境で生きているかについてお話させていただきたいと思います。

日本一のしじみ漁獲量を誇る「宍道湖」で生きるしじみ

日本一のしじみ漁獲量を誇る「宍道湖」で生きるしじみ

まず、わかりやすいように島根県の「宍道湖」を例に説明させていただきます。

宍道湖は大きく「湖柵部」、「湖盆部」に分かれており、それぞれ特徴が異なるため一つひとつ解説させていただきますね。

湖柵部

湖柵部は水深が浅く、風や波の影響を受けて水が上下に動きやすい環境になっています。そのため底質粒の大きさは粗く、砂や泥、礫(れき)によって形成され、酸素の量も多く含まれていることから多くの生物が生存できる場所になります。

意外に思われるかもしれませんが、しじみも呼吸をします。そのため、酸素の有無が大きく関わってくるんです。この水中に含まれる酸素の量を「溶存酸素」と言います。

湖盆部

湖盆部は水深が深く、外的環境の影響を受けづらいことから水が動きにくい環境です。また、周辺河川や湖柵部から運ばれてきた小さな粒子が沈殿し、蓄積するとどんどん粒の荒さは小さくなり粘度のような泥が形成されていきます。

さらに、塩分を含んだ水が底層に入り込み、そのまま停滞してしまうと酸素が薄くなり生物の生息がほとんどできない環境になってしまいます。

なぜ湖底で酸素が少なくなるかについては、次の見出しで解説させていただきますね。

ここまでお読みいただいてわかるように、湖柵湖はしじみにとってとても大切な場所になります。しかし近年、干拓工事により埋め立てや護岸の改修工事などによりその面積は徐々に減少しているのが現状です。

そして、最近では「黒色軟泥化」という問題も浮上してきています。黒色軟泥とはいわゆる「ヘドロ」のことで、このヘドロが湖底に蓄積していくと、しじみが餌を取るための水管に泥が詰まり、しじみが死んでしまうのです。

現在の網走湖の環境は淡水層と塩水層に分かれている

現在の網走湖の環境は淡水層と塩水層に分かれている

では嶋田がお仕事させていただいている「網走湖」はどうでしょうか。

実は、網走湖は元から湖だったわけではありません。1万年ほど前までは海の一部で、そこから海水面が変動したり、漂砂したりすることでできた海跡湖なんです。網走湖が「汽水湖」であることは以前にもお話しましたが、今回は湖底環境に焦点を絞って見てみましょう。

網走湖の中には二つの層ができています。「淡水層」と「塩水層」。水深約7mほどに境界があり、これより浅い所が淡水層深い所が塩水層となっているんです。下層の塩水層は、無酸素状態となっています。

宍道湖はグラデーションのようになだらかに湖の環境が変化しますが、網走湖は深さによりハッキリと環境が異なるんです。

そんな網走湖は北海道の「しじみの生産量」の8割以上を占めています。ですが、塩水層が増えているという話も有り、両手離しに喜べる状況ではありません。僕含め環境についても考えていく必要があると思っています。

網走では「網走湖水環境改善施策検討委員会」が立ち上げられており、湖の環境を保つために頑張ってくれています。もし網走に旅行の際には、皆さんもちょっとだけ、網走湖の環境を想ってくれると嬉しいです。

先日、「しじみって網で一気に取ってるの?」と質問されました。

毎日のルーティン過ぎるため考えてもみませんでしたが、結構珍しい方法でしじみ漁を行っていることに気付いた嶋田です。

今回はちょっとマニアックな話ですが、実際のしじみ漁がどのように行われているかを紹介させていただきます!

しじみ漁は基本的にはジョレン曳き(ひき)で行われる

しじみ漁は基本的にはジョレン曳き(ひき)で行われる

現在のしじみ漁では、ジョレン(鋤簾)と呼ばれるカゴのようなものをひき、獲ることが一般的とされています。

このやり方は多種多様で、地域によっても細かく異なります。大きくは3つの漁法に分かれるので、代表的な方法は次の見出しで紹介させていただきますね。

しじみのジョレン曳きには3つの漁法がある

入り掻き

入り掻き

入り掻き」とは、水深の浅い砂場で、漁師自身が湖の中に入る方法です。ジョレンに腰ひもをつけて人力で引くため、最も労力を要します。現在では島根県にある宍道湖の浅瀬や、神西湖などで行われています。

手掻き

手掻き

手掻き」は、船を止めて船上から長い竿を使ってジョレンをひく方法です。水の流れや風の力など自然の力を利用する方法なので、天候や湖の環境に大きく左右される方法になります。現在では、北海道の天塩川や、茨城県にある涸沼、鳥取県にある湖山池などで行われています。

機械掻き

機械掻き

機械掻き」とは、つな掛けとも呼ばれる方法で、ジョレンの竿にロープをかけて、そのまま船を動かして漁獲する方法です。

他の2つに比べて操業効率は良いですが、その分制限も多い漁法となります。例えば、他の方法に比べ操業時間が1時間短く規制されている、漁船の大きさやエンジンの馬力を制限するなど。

現在では、青森県の十三湖、小笠原湖、濃尾平野にある木曽三川など多くの場所で行われている方法になります。

網走湖もこの機械掻きに含まれるのですが、ちょっと珍しい方法で行っているので次の項目で紹介させていただきますね。

網走湖では噴流式ジョレンでしじみ漁を行っていた

網走湖では噴流式ジョレンでしじみ漁を行っていた

実は網走では先ほど紹介したジョレン曳きの中でも非常に珍しい方法で漁をしているんです。漁法としては機械掻きに分類されますが、実際は噴流式ジョレンと呼ばれる独自の方法です。

昔は【ホースで海水を吸い上げる➡その海水を網に向かって噴流する➡船を動かして網をひく】というやり方でしじみを獲っていました。それが昔なじみの噴流式ジョレンです。しかし最近では更なる進化を見せ、現在では「プロペラ」を使用した方法へと変化しています。

全国でも珍しい!網走湖の「プロペラ」を使用したしじみ漁法

全国でも珍しい!網走湖の「プロペラ」を使用したしじみ漁法

嶋田がしじみ漁を始めた時からは、「プロペラ(通称ペラ)」を使用した方法でしじみ漁をしています。

元々は、水の中で水を出す「噴流式」だった網走湖のしじみ漁ですが、今ではプロペラによる水流でジョレンの中にしじみを送る非常に珍しい方法に。全国のしじみ漁師が集まるシンポジウムでも注目を集めました。

この方法により、1日に約80kg以上のしじみを獲ることが可能となり、船に上げる前に泥を落とせる利点もあります。網走湖の漁師が全国的に見ても漁獲量が多いのは、ペラを使用しているからなのでしょう。

このように、しじみ漁時代と共にアップデートを続けています、嶋田も第一線で走り続けられるよう勉強していきますので、引き続き嶋田漁業部をよろしくお願いします!

シジミは非常に選別の難しい生き物です。見た目は生きているように見えても、実際は死んでいるなんてこともよくあります。

ですが、皆さんに美味しいしじみを届ける為にも、出荷前には必ず生きている貝と死んでいる貝を分ける必要があります。

そこで今回は、具体的な見分け方や、選別の流れや、ちょっと専門的な用語についても紹介させていただければと思います!

ガボとは貝殻の中に泥が詰まった死骸

ガボとは貝殻の中に泥が詰まった死骸

貝殻の中に泥が詰まった死骸を「ガボ」と呼びます。(その他にも「ガッポ」、「バクダン」など)これはしじみ漁師の天敵とも言えるほどのもので、このガボをいかに取り除くかを日々考えながら過ごしています。

ではなぜガボがあると良くないのか?最もイメージしやすい場面は、お味噌汁に入れた場合です。この時、ガボが混ざっていると、お味噌汁の中にが入ってしまいます。どれだけ美味しいお味噌汁を作っていたとしてもその時点で台無しになってしまいますよね。

そんなことが起きないよう、漁師の間ではいくつかの選別方法が採用されています。少しマニアックな話ですが、紹介させてください。

一般的なしじみ漁の選別の流れ

一般的なしじみ漁の選別の流れ

しじみの選別にはいくつかの機材を使う漁師も少なくありません。

一般的なもので言えば「回転式選別機」や「平通し選別機」でシジミの大きさを大まかに選別することができます。これを船上で一回、陸で一回行い、さらにそこから「ふるい」を使用して選別、そして最後は手作業でガボの選別を行います。

この後、シジミを一つひとつコンクリートの上に落とし、落とした時の音や響きなどでガボかどうかを見極めていきます。ここからは手作業になるので、根気と技術の勝負です。

ほとんどのしじみ漁師は、ガボを見分ける技を持っています。これは決して一朝一夕で身につけられる物では無いですが、比較的簡単な方法を次の見出しで紹介したいと思います。

ガボ見分ける4つのポイント

ガボ見分ける4つのポイント

ガボを見分けるには大きく4つのポイントがあります「殻の後縁部(広い方)がギザギザに削れている」、「他のしじみと比べて極端に軽い」、「殻の表面のツヤが全くない」、「靭帯が凹むかどうか」です、それぞれ詳しく見ていきましょう。

殻の後縁部(広い方)がギザギザに削れている

正常なしじみは、後縁部が滑らかな曲線を描いています。これがガボになると、ノコギリの歯のようにギザギザになっていることが多いです。目で見てわかるものもあれば、実際に触った時の感触でわかることもあります。

他のしじみと比べて極端に軽い

死んだしじみは、生きているしじみと比べて軽くなることがほとんどです。重さだけでなく、揺らすとカラカラと音が鳴るものもあります。

殻の表面にツヤが全くない

生きているしじみは殻がテカテカと光っており、ツヤがあります。逆に、ガボのような死んだ貝はツヤが全く無く、光の反射が少ないため見分けやすいんです。

靭帯が凹むかどうか

「しじみの靭帯ってどこだよ!」と思われた方、そうですよね(笑)

しじみの部位については、「ヤマトしじみの見た目と中身の解説記事」で紹介させてもらったので、もし良ければご覧ください!

さて、本題です。これは「日本シジミ研究所」という所が発見した画期的な方法なのですが、靭帯を見るとガボかどうか判別できると言うのです。

具体的には、しじみの靭帯を指やピンセットで押して凹んだ場合、もしくは靭帯の膨らみが削れて無くなっている場合はガボである確率が高いという内容です。

以上がガボを見分けるポイントです。しじみ漁師はかなり注意を払いガボを取り除くよう努めていますが、ごく稀に商品の中に入ってしまうことも。料理をする前などに少しだけしじみに目を配っていただけると、その後の料理もより美味しくなるかと思います!

「しじみって、どれくらい生きるんだろう?」そう疑問を持った嶋田は、調べまくりました。

しじみの年齢は何歳くらいなのか、そもそもどうやって年齢を見るのか?

今回は、しじみの歳について語らせて下さい!

しじみの寿命は10年程度

しじみの寿命は10年程度

人間五十年…なんて織田信長が言ってました。今では人の寿命は90歳近いことが多いですが、しじみはどうでしょう?

実はこれに関してはハッキリとしたことがわかっておらず、専門家の間でも未だに研究が進められている分野だったりします。

一般的には、しじみの寿命は長くても10年程度と考えられています。ですが、過去に秋田県で20年近く生きたしじみが発見されるなど、個体や環境によって異なることでも知られているんです。

ではしじみの年齢はどこで判断するのか?それは、次の見出しでお話します。

しじみの年齢は、何回冬を越したかでわかる

しじみの年齢は、何回冬を越したかでわかる

(引用:中村 幹雄,シジミ学入門,山陰中央新報社,2018年 初版)

ヤマトしじみの貝殻には、木の年輪のような線があります。これは輪脈と呼ばれるものであり、これを見ることでヤマトしじみの年齢を知ることができるんです。

ではどういった点から年齢を判別するのか?それは、段差状輪紋と呼ばれる段差を見ることで判別できます。一見規則的に見える輪脈ですが、所々段差状になっているんです。この段差(輪紋)こそが、しじみの年齢。

しじみは成長の中で、様々な要因によって成長が停滞する時期があります。特に冬の間は水温が低く、生理活性が鈍くなると考えられていることから、輪脈の感覚が狭くなります。そして、次の春を迎えた時に輪紋ができている。

何回冬を越したか、それにより、しじみの年齢がわかるんです。

おまけ:最大のしじみは500円玉を超える

おまけ:最大のしじみは500円玉を超える

引用:中村 幹雄,シジミ学入門,山陰中央新報社,2018年 初版

味噌汁に大きなしじみが入っていたらテンション上がりますよね、え、嶋田だけですか?

実は、ヤマトしじみは殻の長さが30mmを超えていると特大サイズと言われます。ですが、世の中には50mm以上のしじみが発見された、というデータもあります。このしじみは宮崎県で発見されたようで、言うなればしじみ会のゴジラとも言うべき超巨大しじみ。

なぜこれほどまでに大きくなったのかは未だ解明されていません。謎の多い分野だからこそ、しじみの魅力は尽きない…嶋田も、しじみを愛する者として勉強を続けます。

クラウドファンディングはじめました!
2022年11月18日~12月19日を期間にクラウドファンディングを始めました!8月にしか獲れない極上品のしじみを使った「お粥」を商品化するプロジェクトです。プロジェクトを通じて「しじみが貴重な水産資源であることを知ってもらう」「しじみの良さを再発見してもらう」「若者に網走湖のしじみ漁という伝統文化を知ってもらう」という3つの目標を叶えます!日本のしじみ文化を守るために、ぜひ、ご協力ください!

北海道で五代続く漁師が考案した最高に贅沢な「しじみのお粥」を全国に届けたい

皆さんは好き嫌いがありますか?嶋田はしじみが大好きです(笑)

人がご飯を食べるように、しじみもまた、ご飯を食べます。

しかし、あの小さな体でどうやってご飯を食べているのでしょう?

また、主な餌は何なのでしょう?

今回は、ヤマトしじみを例に、「しじみの食」についてお話したいと思います。

ヤマトしじみは究極の雑食?

ヤマトしじみは究極の雑食?

ヤマトしじみは、食事をするとき、水中に浮遊する混濁物(こんだくぶつ)を一旦無差別に取り込みます。そして、エラでろ過し、必要な物のみを餌とするんです。ろ過された有機物は、口、胃腸、肛門の順番で移動し、出水管から糞として外へ排出されます。(このような生物をろ過食者と言います)

しじみは、湖底でじっとしていることが多い生き物です。魚のように移動して、餌を選んで食べるという行動よりも、無差別に食べて、そこから栄養となる餌を選ぶ(エラでろ過する)方が効率が良いなと思ったのかもしれませんね。

しじみは水を綺麗にする

しじみは水を綺麗にする

食べたその場で排泄をするので、水が汚れるんじゃないかと思われる方もいるかもしれません。しかし、事実はその逆、しじみは水を綺麗にするんです。

ある実験で、水温25℃でしじみ1体は170ccの水をろ過するという結果が出ています。単純計算で7体のしじみを入れると、1Lの水をろ過することができる計算です。しじみ、凄くないですか?

先ほど糞の話をしましたが、完全に消化された糞は小さい粒子で出ます。未消化の糞でも人間の目では見ることが困難なほど小さく、また、デトリタスというものが含まれており、他の水生生物がこれを食べるため、水は綺麗なままなんです。

ヤマトしじみは何を食べる?

ヤマトしじみは何を食べる?

先ほどしじみは無差別に取り込み、エラでろ過することで餌を得るというお話をしました。では、しじみの栄養となる餌はどのような物なのでしょうか?

実はこれ、まだはっきりとわかっていないんです。ですが、最近の研究により、植物プランクトンや底生微細藻類、陸上の植物を起源とする有機物を栄養源としていることがわかりました。

しじみの餌は生息する場所や季節によっても異なると言われており、今後も目が離せないトピックです!嶋田はしじみを追いかけ続けます。

皆さんはしじみをまじまじと見つめたことはありますか?

あるのは漁業関係者の方だけだと思います(笑)

ですが、しじみには個性があり、あの小さなボディに様々な臓器が詰まっています。住む場所によって、殻の色が変わったり、合理的に形を変化させたりととても面白い生物なんですよ。

今回はしじみの見た目と中身、そして個性について語らせてください!

外部形態:しじみの背中は細い方

外部形態:しじみの背中は細い方

ヤマトしじみの殻の大きさは、「殻長」、「殻幅」、「殻高」の部位に分けて計測します。殻の表面には、円心状の成長線が刻まれていくので、どれくらい長生きしているかがおおよそわかるんです。(木の年輪見たいなものですね)

しじみの殻は「前後」、「左右」そして「背腹」に分けられます。

「しじみの背中ってなに?」と思われる方もいると思います。でも、ちゃんとしじみにも背中とお腹があるんです。しじみの殻の上下を繋ぐジョイント部分を靭帯と呼びます。この靭帯がある方が背中側(細い方ですね)。

内部形態:小さなボディに多くの臓器

内部形態:小さなボディに多くの臓器

殻を開き、全面を覆っている外套膜(がいとうまく)を剥がすと、2枚のエラがあります。なんとしじみはエラ呼吸なんです。そのエラと下にある薄い膜を取り除くと、ヤマトしじみの生殖線消化器官が観察できます。

これ、実は結構革命的なことで、元々解剖図鑑などにヤマトしじみは載ってなかったんです(ハマグリは載ってました)。ですが、近年になってしじみの解剖図が発表、あの小さい体の中に様々な消化器が入っていることが判明しました。

当たり前ですが、しじみにも心臓があり、胃があり、腸があります。また、口も肛門もありれっきとした生物なんです。味噌汁の具材として入っているしじみ、小さいですが、こんなにもいろんな臓器が詰まっていたんです。

ヤマトしじみの個性:川と湖でこんなに違う

ヤマトしじみの個性:川と湖でこんなに違う

引用:中村 幹雄,シジミ学入門,山陰中央新報社,2018年 初版

さて、外側の殻と、内側の臓器のお話をしましたが、実は同じヤマトしじみでも、生息場所によって個性があるんです。その個性は、外側の殻に現れます。

泥底に生息するシジミは黒色(黒しじみ)、河川に生息するしじみは茶色から黒にかけてのグラデーションがかかっており(べっこうしじみ)、砂底に生息するシジミは黄色(黄金しじみ)と、それぞれ殻の色に個性が現れるんです。これには硫黄の量が関係していると言われています。

また、湖と川では殻の形も異なります。一般的に川は潮汐(ちょうせき)によって塩分濃度が変化します。川のしじみは塩分が高くなった時には砂底に潜り、低くなった時には餌を求めて表面まで出るという行動をすることから、平べったい形に最適化されていったわけですね。

湖のしじみには、セコハゲと呼ばれるしじみがいます。これは汽水湖で多く見られ、湖底の泥含有量が多く酸素が少ない環境で発生します。セコハゲが多く見られるような場所では、底質環境が悪化している可能性があるため、改善策を考えなければいけません。

このように、同じヤマトしじみでも多くの個性があるんです。あなたの街のしじみは、どんなしじみですか?

汽水湖は過酷な環境であり、ヤマトしじみはそこで育ちます。

では安全な川や海でも育つのか?答えはNOです。

今回は、ヤマトしじみがどのように生まれ、どんな人生(?)を送るかを語らせてください!

ヤマトしじみの発生

ヤマトしじみの発生

発生とは、受精卵から成体になるまでの過程を言います。この時期がしじみの人生(?)の中で最も自然死亡の大きな時期であり、しじみの生活を左右する重要な時期です。

ヤマトしじみの発生はミクロの世界かつ、水の中で進みます。シジミの受精卵や稚貝になるまでの幼生は、0.1mm以下という人間の目では見ることができないほど小さいサイズです。そのため、顕微鏡を使用して観察します。

ヤマトしじみ発生から成体までのタイムライン

ヤマトしじみ発生から成体までのタイムライン

産卵から着底までの浮遊幼生期間が長いことが最大の特徴です。

ここでは、実際にどのような変遷を辿って卵が成貝に成長していくのかを見ていきましょう。

受精後の時間状態
10分卵割の開始
3時間肺表面に繊毛が形成、遊泳を行うようになる
6時間トロコフォア幼生になる
9時間ベリジャー幼生になる
5日ベリジャー幼生後期〜稚貝へ
2〜3週間成貝と同じ殻形に成長

聞き馴染みの無い言葉も多いかと思うので、ちょっと補足の説明をさせていただきます。

トロコフォア幼生

第一の浮遊幼生期で、形はやや縦型、体の回転運動が頻繁になる時期です。

ベリジャー幼生

第二の浮遊幼生期であり、トロコフォア幼生に比べ期間が長いです。初期は殻が不完全で、「D」の形をしています。そのため、この時期の幼生は「D型幼生」と呼ばれています。繊毛のある部分は面盤に分化し、遊泳を行います。

ベリジャー幼生後期

先ほどのベリジャー幼生の後半の時期で、足が発達し、面盤が徐々に退化していきます。同時に殻の形成も進むため、遊泳能力は低下していき、最終的には稚貝となって着底します。

ヤマトしじみが発生するには、塩分濃度が大切

ヤマトしじみが発生するには、塩分濃度が大切

ヤマトしじみは汽水湖河川感潮域などの汽水域のみに生息しています。これは、汽水でしか再生産できないという意味です。

なぜ汽水でしか再生産できないかと言うと、浸透圧の関係で、ヤマトしじみは卵内浸透圧が外界水の浸透圧とほぼ等しい時にしか受精と発生ができないからなんです。

ヤマトしじみの発生には塩分濃度が大切で、生息環境はしじみの再生産や資源を持続するために重要な要素になります。

ヤマトしじみの生殖は、雌が卵を産み雄が精子をかける鮭のような方式です。

では、ヤマトしじみの雌はどのようなサイクルで卵を産んでいるのでしょうか?

各段階の特徴や条件、放出する卵の数について解説します!

ヤマトしじみの産卵、6つの段階

ヤマトしじみの産卵、6つの段階

ヤマトしじみ雌の生殖巣の成熟過程は、以下の6つに分けられます。

休止期冬の間は産卵を行わず休止する
成長前期季節は春頃で、生殖細胞が出来始める時期
成長後期成長し夏に差し掛かる頃、生殖細胞が増える
成熟期成熟し身が詰まっており、最も美味しい時期
放出期産卵期で、生殖活動を行う
放出終了期放出終了後は再び休止期へ

雄の成熟過程も(細部は異なりますが)、6つの同じ段階を経て放精に至ります。

産卵の条件は水温にあった

産卵の条件は水温にあった

ヤマトしじみの産卵は、一定の条件下でしか行われません。その条件のひとつが、「水温が25℃以上であること」。北へ行けば行くほど水温は低くなるので、その分産卵期もずれ込みます(嶋田が漁をさせてもらっている網走湖では、7月中旬〜9月下旬に産卵期を迎えています)。

また、塩分濃度が低すぎる場合も産卵されないことがあります。これは、汽水湖に適応したヤマトしじみならではの特徴ですね。

汽水湖については、以下の記事で解説しておりますので、興味をお持ちの方はご覧ください。

雌が放出する卵の数は数十万個!?

雌が放出する卵の数は数十万個!?

ヤマトしじみの雌は、一年の産卵で約30万〜90万個の卵を放出すると考えられています。放卵は通常30分から1時間と言われていますが、時には数時間かかることもあるようです。また、卵は放出直後は細く、糸状なのですが、約30分で球体となり、完全な成熟卵となります。

こうして産卵した卵に対し、雄が放精を行うことでしじみの子供が生まれていきます。

では、ヤマトしじみはどのようにして生まれるのか?

それは、別の記事でお話します。

以前の記事で、「軟体部観察法」のやり方をご紹介しました。

今回は、よりマニアックな「軟体部指数法」と「組織学的観察法(組織切片法)」の紹介をさせていただきます!

これを知っているだけであなたは相当なしじみマニアです。

軟体部指数法:計算式で生殖周期を見る方法

軟体部指数法:計算式で生殖周期を見る方法

軟体部指数法は、ある計算式によって%で単体部指数を出す方法です。

その式がこちら。

式:軟体部指数(%) = 軟体部湿重量殻付き湿重量 ×   100

軟体部湿重量は、しじみの中身の重量で、殻付き湿重量は殻を含めた重さです。この二つの重さを使うことで、軟体部指数を出すことができます。こうして出した軟体部指数を、1年を通して計測し、しじみの生殖周期を把握していきます。

ですが、指数の計算はあくまで概算値であるため、生殖周期の把握方法としては簡易的な方法であることに注意が必要です。

より正確な生殖周期を知るためには「組織学的観察法」を行う必要があります。

組織学的観察法(組織切片法):専門家が行う方法

組織学的観察法(組織切片法):専門家が行う方法

ヤマトしじみの生殖周期を把握する3つの方法のうち、もっとも正確に生殖周期を知ることができる方法です。でも、もっとも難しい方法でもあります(笑)

組織学的観察法は、別名「組織切片法」とも呼ばれ、その名の通り生殖巣の組織細胞を観察することで、生殖細胞の形成過程と生殖巣の成熟過程を調べる方法です。

しじみの生殖細胞の組織切片を作成する専門的な技術と、作成した切片から生殖細胞の形成過程、成熟過程を読み取る専門的な知識を必要とする方法のため、一般の方はまず行いません。

細胞の確認をするために、電子顕微鏡が必要なので、どうしてもやってみたい方は用意してみてください(笑)

しじみ豆知識:マシジミには性別がない!

しじみ豆知識:マシジミには性別がない!

(引用画像:社団法人 日本水産資源保護協会「わが国の水産業」)

嶋田のブログではヤマトシジミを例に挙げてお話をすることが多いですが、日本には三種類のしじみがいます。

雄と雌があり、汽水湖や河川感潮域の汽水域にのみ生息するヤマトシジミ、琵琶湖水系の淡水域にしか生息していないセタシジミ。そして、雄と雌が存在しないマシジミ

そう、この中で唯一性別が無いのがマシジミ。彼(彼女?)は雌雄同体と呼ばれる特性を持ち、自分だけで受精することができます。

(他にもカタツムリなどが雌雄同体の生物)

同じしじみでも、色々な個性があるんだよ、という豆知識でした(笑)

しじみは有性生殖の生物なので、当然ですが雄と雌がいます。

今回の記事では、ヤマトしじみを例に出して、雄雌の見分け方をご紹介!

この記事を読めば、あなたもしじみの仕分けができますよ(笑)

雄と雌の違いは中身の色でわかる

雄と雌の違いは中身の色でわかる

引用:中村 幹雄,シジミ学入門,山陰中央新報社,2018年 初版

ヤマトしじみの雄と雌の違いは、外見ではわかりません貝殻の中身の生殖巣の色で判別します。

は卵巣に卵がぎっしり詰まっているため黒くは精巣に精子が詰まっているので白く見えます。また、産卵期はパンパンに膨らむので、一番美味しく食べられる時期です。

ヤマトしじみの産卵期はおよそ7月〜9月で、膨らみ具合は7月に入ってから急激に増加、8月中旬にピークを迎え、9月に入るとほぼ横ばいの状態が続きます。

また、生殖巣の色は雌5月〜8月頃まで判別可能で、11月を超えると雌雄の判別が困難なほど色の違いが無くなります。

肉眼による軟体部観察法

肉眼による軟体部観察法

(引用:中村 幹雄,シジミ学入門,山陰中央新報社,2018年 初版)

軟体部観察法では、肉眼で軟体部の膨らみ具合を観察して、1〜5段階で数値化しておおよその産卵期を推定する方法です。見た目でわかりやすいことから、一般の方から漁業者など広く使用されている方法なんです。

非常に手軽な方法なのですが、問題点もあります。

グルタミン酸が含まれている代表的な食べもの
  • 産卵期以外での雌雄の判別が困難なこと
  • 人により膨らみ具合の判断が異なること
  • 得られたデータは科学的根拠に乏しい


などなど、あくまで簡易的な手段ということを覚えてくれると嬉しいです。

より正確な産卵期や、客観的なデータで予測する方法として「軟体部指数法」、「組織学的観察法」などがあります。こちらも別の記事で解説していますので、気になったしじみマニアの方はぜひご覧ください(笑)

しじみの性比は1:1

しじみの性比は1:1

性比とは、有性生殖を行う生物の雄と雌の割合です。

性比は生物の種類によって偏りが見られるんですが、人間のような哺乳類やカラスなどの鳥類はおよそ1:1(雄:雌)の割合になるそうなんです。

しじみ専門書の調査によると、宍道湖産ヤマトしじみを941個選別した時に、雄485、雌456とおよそ1:1となったそうです。

性比が人間と同じだと思うと、ちょっとしじみへの親近感が湧きませんか?

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